窯元探訪 vol.4

by Hasami Life 編集部
窯元探訪 vol.4

波佐見町には全部で59の窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。このシリーズでは、窯元を順番に尋ね、器づくりについて話を聞くだけでなく、ふだんは見られないプライベートな顔までご紹介したいと思います。

今回、伺ったのは波佐見町の折敷瀬郷(おりしきせごう)という地区に窯を構える『翔芳窯(しょうほうがま)』さん。創業当時より “手描き”にこだわり、素朴でぬくもりのある器から唯一無二のモダンなデザインまで、たくさんのファンを持つ窯元です。

ある日、工房を訪れると、忙しそうに働く職人たちの中で、ひときわ機敏に動き回る男性がひとり。2代目の福田雅樹(まさき)さんです。





いつも工房にいる。いつも焼きものについて考えている。

福田雅樹さん(以下、福田) 寝ても冷めても、ずっと仕事のことを考えてるんですよね。そろそろ目覚ましが鳴るな〜ってとき、つまり目が覚める直前から、僕の頭の中は仕事でいっぱい。だから、ガバッっとすごい勢いで起き上がって、昨日の仕事の続きを話し始めたりするらしいです。


―― それはすごい! ご家族もびっくりですね(笑)

福田  眠りながら、怒っていることすらあるらしいんですよ。寝言で誰かを叱ってると。もちろん、僕は覚えてないんですけど(笑)。

【翔芳窯】2代目、福田雅樹さん。工房のそばでは、子どもたちが楽しそうに遊んでいた。

福田  自宅と工房がこの距離でしょう? 日曜日も絶対にここへ来ちゃうんです。工房の中を1〜2時間ウロウロして「この釉薬はきれいに色が出てるな」とか、「1週間でこれだけ進んでるんだな」とか、ただただ見て回っています。買い物へ行っても、帰ってきたらここ。どこかへ出掛けても、まずはここ。いつもだいたいここにいますね。


――最初から、焼きもの世界へ入ろうと思っていたのですか?

福田  いえ、そんなことはないです。小さい頃は車屋さんになりたかったですね。

ただ、今でも覚えている光景があって。陶器市終わりに親父から100万円の札束を見せられたんです。「雅樹、焼きもの売ってきたぞ!」って。札束ってなかなか見たことないじゃないですか。今だったら、「こんなもんか」ってなるかもしれないけれど、当時の僕にとってはすごい分厚くって。その時に「継ぐ」って言いました(笑)。中2だったと思います。


―― 札束に目がくらんだんですね!(笑)

福田  パパッて頭をこつかれて「継がなくていいよ」って言われたことも覚えてます。でも、親父も僕の「継ぐ」という一言はずっと覚えてたようです。

その後、佐賀県立有田工業高校に進み、焼きものの勉強をしました。でも、高校を卒業して就職するときは、まだこの世界で生きていく覚悟はできていませんでしたね。親父の知り合いだった京都の窯元にお世話になったのですが、正直にいうと「もう、焼きものはやりたくないなぁ」という気持ちで行きました。

【翔芳窯】初代であり、父の福田茂喜さんと。工房の前で。


修業時代から今も続く“ワクワク感”

福田  波佐見では、自分が作った焼きものを翌日には手に取って見られるんですけど、京都では窯へ入れてから丸2日間かかります。1日かけて焼いて、1日かけて冷まし、それからようやく見られるんですね。

修業時代、僕は自分が作ったものをとにかくすぐに見たかった。早く焼きものが冷めてほしくて、窯の扉のネジを緩めたりしていたくらい。もちろん、「窯を開け始めたの、誰?」とバレて、めちゃくちゃ怒られたこともあるんですけれど。「ネジが緩んでたみたいですね」と言い訳したりして(笑)。

どんな風に焼き上がっているんだろう? そのワクワク感は、京都での修業時代に知りましたね。この気持ちだけは今も変わりません。焼きものをやっていて最高に楽しい瞬間です。


―― 修業時代に焼きものの面白さに気がついたんですね。

福田  そうですね。土を触らせてもらえたことも大きかったです。修業の身とはいえ、実際に作らせてもらえなかったら、今、焼きものをやってないんじゃないかな?

転機となったのは、二十歳の時の京焼展。「イッチン」という装飾技法で仕上げた焼きもので、ちょっとした賞をもらうことができたんです。自分のワクワク感を評価してもらえたことで、この業界でやっていこうという覚悟が生まれた気がします。

実際に京焼展に出した作品。迫力のある龍のモチーフとは裏腹にイッチンで繊細に描かれた鱗が印象的。

ツボの裏には「京都窯・雅樹作」と書かれている。京都の人からは「こんなの京焼じゃない」と批判も受けたという。

―― 今や「翔芳窯といえば、イッチン描き」ですよね。

福田  ここでイッチン描きを始めたのは僕なんです。実はね、イッチン描きって、筆に比べるとすごく楽なんですよ。先が硬いので、ボールペンみたいに描くことができるのです。

マヨネーズのケースのような容器に釉薬を入れ、注射針のような細い管から絞り出すようにして模様を描く(=イッチン描き)。

雅樹さんは「イッチン描きは楽」と話すが、容器を押す強さと描く速度を調整しながらの作業は、熟練の技が必要。

まるで切子ガラスのような美しさが人気の『ホワイトライン』。ブルーやグレー、レッドなどの釉薬に白いラインが映えるシリーズで、今や翔芳窯の顔ともいえる代表作。Hasami Lifeでは、瑠璃のみ取り扱い中。

―― 絵はお好きだったのですか?

福田  まったく(笑)。小学生のときも下手でしたし、たぶん高校でも描いてないですね。大人になってから、ここ5年ぐらいで水墨画を描くようになりました。といっても、龍の絵だけ。絵を描くことが好きというよりは、龍を描くことが好きです。

最近は人にも頼まれるようになったのですが、龍のほかに虎も描いてくれって言われてお断りしました。虎って実際にいる動物じゃないですか。それは描きたくないんです。はっきりと姿や形が決まっているものは難しい。

「龍は架空の生き物だからこそ、描きたくなるんだと思います」と福田さん。

福田  絵を教えてくれたのは、実は妻。今も工房で絵付けをしていますよ。

出逢いは京都の修業先です。修業時代、僕も妻も「陶あん」さんの焼きものが好きでした。陶あんは、京都の東山で大正11年に創業した京焼の窯元なのですが、給料を3ヶ月ぐらい貯めては買いものへ出かけていました。なので、うちの焼きものの中にも、どことなく京都の匂いがするものが見られると思いますよ。

京都の修業先はすごく厳しくて、線の位置が2mm違ったらB品になるくらいでした。だから、僕も妻もこだわりすぎてる商品を自分以外のだれかにお願いするのがすごく苦手なんです。

桜、牡丹、椿など、花をモチーフにした美しい絵付け。雅樹さんの妻・和佳奈さんにしか描けないものも多い。

福田  自分の頭にある世界は、自分の手で描きたい。こだわりが強すぎるので、こういった商品の量産化は、手間や価格を総合的に考えると、波佐見では難しいと思っています。

職人みんなが描けないから流通にはのせられないですが、工房に併設しているショップには置いていることもあるので、波佐見に遊びに来たときには、どうぞ寄ってみてください。


※記事内で紹介する商品の中には、Hasami Lifeで取り扱いのないものもございます。翔芳窯さんのオンラインストアも併せてご確認ください。




【翔芳窯】

長崎県東彼杵郡波佐見町折敷瀬郷761-8

0956-85-4724


●公式サイト

https://shohogama.com/

オンラインストア

https://shohogama.stores.jp/sale

Instagram

https://www.instagram.com/shohogama/


次回は、福田さんがどんなことを大切にしながらデザインしているのか、波佐見町ならではのエピソードとともにご紹介します。



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