薪ストーブのぬくもり【はじめての波佐見LIFE 5歩目】

薪ストーブのぬくもり【はじめての波佐見LIFE 5歩目】

2021.01.22

波佐見の暮らしや焼きものにまつわる話、そしてちょっぴりプライベートなことまで。編集部員が自由気ままに綴ります(不定期更新)。

こんにちは、Hasami Life 編集部のくりたです!
2021年最初のコラムです、みなさま今年もよろしくお願いします。
今回も波佐見町で暮らしはじめたわたしの『波佐見LIFE』をお届けします。


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ああ、寒い。こちら波佐見町、とっても寒いです!

地元の方々に「山に囲まれた盆地やけん、ここの冬はすごい寒かよ〜!」とは聞いていたのですが、まさにその通り。

でも、大丈夫。波佐見のいくつかのスポットには、薪(まき)ストーブがあるんです。薪ストーブですよ! わたしにとっては非日常感があって、すごくテンションが上がります。今日は冬のあたたか〜い波佐見をみなさんにお見せします。

 

『HANAわくすい』で火おこしを見て。

波佐見の大人気スポット、西の原。すてきなカフェや質のよい生活道具ショップ、グロッサリーなどが並ぶエリアです。じつは半数以上のお店に薪ストーブがあるんですよ。もともと製陶所だった建物をきれいにリフォームして使用している雰囲気のいいお店に、薪ストーブが似合うんです。

最初に伺ったのは、質のよい生活道具を取り扱う『HANAわくすい』です。

営業の邪魔にならないよう開店より少し早めに写真を撮りに行くと、店長さんが火をおこすところを見せてくれました。

燃えやすい細い枝や、灯油を染み込ませたチップ、薪を入れて点火。

 

火を点けると、一気に燃え上がった。店長さん曰く「灯油を染み込ませたチップが入っているので、すぐ火が点くんですよ」とのこと。

大きく揺れる生まれたての炎。じんわりじんわりと空気があたたかくなってきます。ああ、薪ストーブってすてき!

 

『南創庫』でほかほか器選び。

お次は、波佐見焼のショップ『南創庫』。

お店の中央部分に薪ストーブ。すぐに使えるように、横のテーブルの下には薪がぎっしり置いてある。

店員さんが様子を見ては薪を足しているそう。「ちょこっとだけでも乾燥対策になればと思って」とストーブの上に水の入ったポットを置いているのが、かわいい!

波佐見焼もついつい見てしまうわたし。ゆっくりあたたまりながら器を吟味する時間は、充実感に満ちてました。

人気の「Common」シリーズがずらり。前回のコラムでも紹介した愛用しているボウルを買い足そうかな、オーバルのプレートもいいな。なんてテーブルコーディネートの妄想が広がっちゃう!

ところで、薪ストーブで燃やす薪は夏に準備するって知ってますか? わたしは去年知りました! 夏に薪置き場の近くを通ると木の爽やかな香りがして、訊いてみたら「薪割りは木が乾燥しやすい夏が適している」と教えてもらいました。しかも、割ってから2年ほど乾燥させて使うんですって! ゆったりしたサイクルがまた、いいものだなあ。

西の原のすぐ横の駐車場奥にも、薪を積む場所が。たくさん薪が必要になるので、西の原にはいくつかこんなスポットがある。遊びにきたらチェックしてみて!

 

『四季舎』の薪ストーブを囲んで、昔話を。

さらなる薪ストーブを求め、西の原を出て、車で10分ほどの『文化の陶 四季舎』さんへ。

江戸時代から昭和まで、波佐見での陶磁器生産のメッカだった中尾山。その山頂近くにある交流拠点&お食事処の四季舎にも、薪ストーブがあります。囲炉裏もあるしピザ釜もある、観光に来たらぜひ寄ってほしいあったかスポットです。わたしも何度も遊びに来ています。

以前四季舎さんを取材した記事、こちらもよかったらご覧ください。

波佐見へ行ったら、まずここへ vol.1
「文化の陶 四季舎」館長の畑中昌三さんに聞く、波佐見のいま&むかし話

 

顔を出すと館長の奥さま、畑中瑞子(はたなか みずこ)さんがわたしを下の名前で呼んで「いらっしゃい。ほら寒いから、ストーブの近くにおいで」と声をかけてくれます。

「冬は乾きにくい洗濯物も、薪ストーブの近くに干せばすぐ乾くのよ」と瑞子さん。

一緒に薪ストーブにあたりながら、お話を聞きました。

「瑞子さん、燃やすのはどんな木がいいんですか?」

「なんでもいいんだけど、硬いカシの木なんかがいいねえ。とにかく硬い木のほうが、燃やしたときに長持ちするし、灰じゃなく炭になる。炭はね、近くのわが家へ持ち帰って火鉢に入れて使ってるのよ」

ちいさい炭だけど十分あたたかいのよ、うれしそうに笑う瑞子さん。木材を一切無駄にしないところが、さすがです。炭になった薪も見せてもらいました。

瑞子さんたちは薪ストーブの副産物である炭も有効活用。"ボシ"の中に入れて蓋をし、冷ましてから自宅に持ち帰っているそう。ちなみに"ボシ"は器を焼成するときに使用する窯道具のひとつ。こんなところも、焼きものの町らしい!

瑞子さんがご自宅で使っている火鉢。隣町・有田の華山窯さんのもので、骨董屋で見つけて購入したとのこと。もう、すっごく絵付が繊細! 薪が燃えた後のちいさな炭を入れて暖をとり、網を乗せてお餅を焼くこともあるんだそう。

「そうだ、薪はどうやって手に入れてるんでしょう?」

「うちの夫や仲間で薪割りしてるね。木はご近所さんからもらうの。庭の木を切ったから使ってくれとか連絡をもらってね。まあこの辺はもともと大きな登り窯がいくつもあって、たくさん薪を使って焼きものをつくってたんだもの。いくらでも木材はあるわよ」

わたしももう、波佐見に住んで半年以上。登り窯のことも学んでいます。現在は電気やガスの窯が主流ですが、江戸時代から昭和初期にかけてはこの登り窯を焚いていました。一度にたくさんの器を焼けるのが特徴で、登り窯を焚くのに必要な薪の量は約2トン。それだけの木材が調達できることも、波佐見が焼きものの町として発展した理由のひとつだったんでしょうね。 

登り窯。国の史跡に指定されている、畑ノ原窯跡。現在も窯を維持するために年に一度焚かれている。写真は2020年11月に撮ったもの。

それから、昔の中尾山の話も。

瑞子さんが幼いころ、70年ほど前には、まだ登り窯で焼きものをしていたこと。そのため、あちこちの土手の前に、竹の輪でひと抱えにまとめた薪がずらっと積んであったこと。家ではかまどで料理をしていたこと。火をおこすときに使う細い枝などを「びゃーら」と呼び、それを集めるのが子どもの遊びであり仕事であったこと。

そんなわたしには想像もできない、火が身近な昔の波佐見での暮らしを語ってもらいました。心まで沁みるようにあたたかく、炎の揺れる音がかすかにする、薪ストーブの灯りを眺めながら。やっぱり薪ストーブって、いいなあ。



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この記事を書いた人
Hasami Life 編集部(くりた)
Hasami Life で働くため2020年5月から波佐見町に住みはじめた。ライター兼カメラマン。冬の寒さで澄んだ波佐見の星空にうっとりしながら暮らしている。だんだん手持ちの器が波佐見焼だらけになってきた。