THE HASAMI-YAKI vol.9

by Hasami Life 編集部
THE HASAMI-YAKI vol.9

「分業制」で生産されている、波佐見焼。町のあちこちに陶土屋さん、型屋さん、生地屋さん、釉薬屋さんなど、焼きものをつくるために必要な工房が点在しています。波佐見焼ってどんなふうにつくられているのでしょうか? 今回 vol.9では、「生地屋」をクローズアップ。型と土を使って、窯で焼成する前段階のうつわを成形する職人たちの仕事に迫ります。

 

生地成形の方法は、大きく4種類。

vol.7 での型屋の調査時と同じく、まずは長崎県窯業技術センターへ。成型全般に詳しい、小林孝幸(こばやし たかゆき)さんにお話を伺いました。

「型づくりについて話したときにもお伝えした通り、生地のつくり方には4種類あります。どの成形方法も一長一短で、デザインによってどの方法を採るかは異なります」

焼きものの世界では、窯で焼成する前段階の陶土を成形したものを「生地」と呼んでいます。泥漿(でいしょう)という、どろっとした水分の多い流動体を型に流し込んだり、陶土を型に押し付けたりして成形するのが生地屋の仕事です。技術の差はどういうところに出るのでしょうか?

「生地の品質は『歩留まり』に表れるでしょうね。つまり、焼き上がったときにどれだけ割れたり歪んだり、傷が出たりしないか」

たとえば生地の表面にわずかでも凹凸があると、釉薬がうまくかからず、焼いたときにムラができてしまう可能性があります。そうした商品はA品として出荷することができません。

たくさんスピーディーに生地をつくりつつ、細かい部分まで気を配って仕上げるのが生地屋の仕事なのですね。

それでは、実際に生地屋さんにお伺いしてみましょう!

 

福田生地屋さんへ!

福田生地屋さんは、17名ほどが働く、波佐見でも規模の大きな生地屋です。波佐見町にはあちらこちらに生地屋さんがありますが、家族だけで営んでいたり、数名の従業員を雇ったり、という場合が多数。福田生地屋さんは数の多い発注にも対応できる、窯元から頼られる存在です。

工房に入るとすぐ、「削り」をしている福田陽平さんがいらっしゃいました。さっそく作業を見せてもらいます。

福田陽平さん。1975年生まれ。祖父の代から続く生地屋で働く。町内の型屋に1年通って原型づくりを学び、その後ろくろ師・中村平三 (なかむら へいざぶ)氏のもとで約8年ろくろの技術も学ぶ。生地全般に造詣が深い。

型から取り出した生地の「ケバ」を回転させながら削っていく。これは波佐見町の窯元「一龍陶苑」さんのカップで、ふちのバリを削っているところ。

「削り」の工程では、型から出し乾かした生地の表面をなめらかに加工します。職人たちがバリと呼んでいるのは、わずかにはみ出ている生地のこと。これをきれいに削って仕上げるかどうかで口当たりやさわり心地に大きな差が出るのです。

写真左がバリを削ったもの、写真右はバリが残っているもの。

「削り」の工程でフォルムを調整することもある。このカップの場合は、削ることで丸みのあるシルエットに。

多くの生地をどれも同じように削る職人技。陽平さんいわく、目で削り具合を見るだけでなく、握った金具の手応えや、ちいさな削る音もチェックしながら均等に仕上げるのだそうです。

削ったあと、水を含ませたスポンジで拭くことで、生地の表面をよりなめらかにします。

回転させながら拭く。マグカップなど取っ手がある場合は完全に手作業で行う。バリが細かい場合、すべて水拭きでバリ取りする場合もある。

それでは今回は4種類の成形方法のうち、「機械ろくろ」と「ローラーマシン」について詳しくお話を伺います。

 

【機械ろくろ】少量多品種に対応できる!

「今日はちょっと、機械ろくろを動かしてないんですけど……」とおっしゃいながら、工房の一角に案内してくれました。機械ろくろは圧力鋳込みやローラーマシンに比べると一度にたくさん生産できないため、福田生地屋さんでは出番が少なくなっているそうです。

しかし少量多品種に対応できるのが機械ろくろの魅力のひとつ。発注数によってはコストを抑えることができる成形方法です。

下の石膏型に陶土を打ち付けて回転させながら、アームの先に付けたヘラを押し当てて成形。

4種類の成形方法があるなかで、機械ろくろはどういった生地づくりに向いているのでしょうか。

「波佐見焼で言う『なぶりもの』に特に向いています。『なぶりもの』というのは、ふちを数カ所内側や外側に曲げて変形させたうつわなどのことです」

その秘密は、陶土のやわらかさ。成形方法によって陶土の水分量は異なり、機械ろくろで使う陶土はやわらかいのが特長。だから、型から取り出したあとに変形させる「なぶりもの」はうってつけ。ちなみに、変形のうつわは機械ろくろに比べて固い陶土を使うローラーマシンでは難しいとのこと。成形方法によって向き不向きがあるのですね。

写真左がローラーマシン用の石膏型。写真右は機械ろくろの石膏型。仕上がりの生地のサイズはほぼ同じだが、見た目はだいぶ異なり、機械ろくろの型のほうが軽くて薄い。陽平さんいわく、石膏型をつくるときの石膏に対する混水率も両者違うそう。

 

【ローラーマシン】回転数を緻密に計算して成形

陶土を入れた石膏型と、上から押し当てる金型のコテ、ローラーマシンでは上下ともに回転します。しっかり力がかかるため、陶土は固め。1個あたり10秒くらいでスピーディーにつくれるそうです。

固い陶土を決まったグラム数にカットして使う。

「この回転数がポイントなんです。たとえば、皿の生地をつくるとき、上と下のローラーの回転差次第で、皿の真ん中部分が数ミリ上がり下がりするんです。ちなみに今つくっている筒状の生地だと、上が1分間に430~440回転、下は1分間に700回転くらいしてます。この回転数はものによって全然異なります。だからつくって試して、生地の形状によって調整するんです。型から取り出して生地が乾けば、生地の良し悪しは大体わかるので、チェックして調整してますね」

ローラーマシンの場合、機械ろくろと違い製品ごとに実寸大の図面がある。角度、生地の重量なども細かく決まっている。

回転数は、新しい商品だと試行錯誤を繰り返し、細かく調整すると陽平さんは言います。

「たとえばある新商品で、歩留まりがすごく悪かったんです。焼くと6割くらいが割れたり歪んだり表面にピンホール(小さなくぼみ)ができたりして、ダメになってしまう。そこで、僕はローラーマシンの設定をとことん試しました。回転数を変えて何度も生地をつくった結果、その商品の場合はこれまでの常識とは違って、回転数を大きく落としたほうが歩留まりがよくなったんです。もう格段によくなりました。そういう実験は、これからも大事にしていきたいですね」

さまざまな形状の生地をつくるために、固定概念に縛られないことが大切。実験をしてみて、新たな発見があるとうれしいと語ってくれました。

 

効率化しながら、チームワークも大切に。

学生のころは自動車整備士に憧れていたという陽平さん。ものづくりや機械いじりが好きで、趣味で木工や金属加工などもされています。そうした手先の器用さが、生地屋の仕事でも活きているようです。

「仕事をしていて、いちばん楽しいのは『道具づくり』ですね。機械のカスタマイズも含めて。ちょうど今、削りで使っている『カナ』と呼んでいる刃が、丸くなっちゃって使えなくなってます。この刃のまま削っちゃうとコンマ数ミリ狂うんです。そうすると見た目にはわからなくても、焼くと割れてしまう。だから、ちょっと研いできますね」

生地を回転させ、上から「カナ」と呼ばれる刃で削る切削機がある。どのように刃を当ててけずればいいか、熟知していないと「カナ」は研げない。

ササッと刃先を研ぐ陽平さん。

道具づくりが好きなのはもちろん、その結果として効率がアップするのもやりがい。生地を簡単にカットできるようにと陽平さんが自作した道具は、工房で大活躍している。道具づくりのため、刃物を探しに遠出することもあるという。

「道具づくり以外もなんでもやるんですけど……僕はウチの『なんでも屋』みたいな感じですね。削りとか、生地の配達とか、どこの作業でも人が足りないところに入ります。生地屋はつくった分だけ儲けが出るので、スピードが重要です。そのためには、いいチームワークがないと。だから従業員の人たちに協力してもらいやすい環境づくりを意識して、作業をしています」

最後に今後、どのように生地屋を営んでいきたいと思っているか、陽平さんにうかがいました。

「従業員さんを大切にしていければ、いいんじゃないかと思います。みんなの力を少しずつ借りて続けていければ、間違いないです。ウチはベテランが多いので、今後は若い人の雇用も積極的にしていきたいですね」

焼きものを大量生産している産地、波佐見。生地も大量につくっていますが、今回お届けした通り、機械を使いつつも手仕事が必要な場面も少なくありません。効率化を進めながら、チームワークでスピーディーに生地を成形していく。活気のある工房を見せていただきました。

福田生地屋さん、ありがとうございました! 次回は「生地工房土ばし」さんを訪ねて、排泥鋳込みと圧力鋳込みについてお聞きします。

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