HOME よみもの 波佐見の人 窯元探訪【studio wani】vol.23 夫婦ふたりから窯元として成長。気持ちよくものづくりをするためのビジョン。 2022.08.07 窯元探訪【studio wani】vol.23 夫婦ふたりから窯元として成長。気持ちよくものづくりをするためのビジョン。 by Hasami Life 編集部 波佐見町には、工業組合に名を連ねているだけでも59つの窯元があります。そして小さな町の至るところに、波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。「studio wani(スタジオ ワニ)」さんは、2017年に夫婦ふたりでスタートした窯元です。できるだけ機械は使わず、自分たちでろくろをひき、絵付をし、作陶してきたふたり。注文の多さと子育ての忙しさから、現在ではスタッフを雇ってより窯元らしく成長しています。 最終回でお聞きしたのは、人を雇い育てること、気持ちよくものづくりをするために配慮していることについて。前進し続ける「studio wani」の今と、これからの青写真とは。 写真左が、綿島健一郎さん。1982年熊本県に生まれ。薬科大学に進学するも中退、料理を勉強する。最終的に焼き物が性に合うと気づき、陶芸の道へ。写真右が綿島ミリアムさん。1983年ドイツに生まれる。12歳のときに陶芸の魅力にとりつかれ、陶芸家になるために焼き物と日本語の勉強に打ち込んできた。夫婦ふたりで2017年に「studio wani」を開業。 新しいスタッフを迎えて知った、人を育てるよろこび。 ――:昨年 Twitter でDINOSAURシリーズ(恐竜シリーズ)の人気が出てから、「studio wani」さんの人気はさらに大きくなっていますよね。それから、新しいスタッフも加入して、夫婦ふたりから、より窯元らしくなってきました。 健一郎:今は、ふたり雇っています。Twitterで話題になる前から忙しくはあったので、ミリアムが長女を妊娠したタイミングで、人を増やそうって動きはじめました。今は、YUIちゃんとMisakiちゃんが一緒に働いてくれています。 【YUIさん】入社して1年ちょっと。主に絵付を担当。 【Misakiさん】入社して数ヶ月。主にろくろと窯焚きを担当。 ――:最初はふたりでしていた手仕事に、窯元としてスタッフの人の手も入ることになりました。その部分での葛藤などはなかったですか? 健一郎:めっちゃ悩みました。重要なのは、どれだけスタッフに任せられるか。たとえば「スタッフの絵付はミリアムの筆圧じゃない」みたいなところを、自分たちが許容できるのか。僕はともかく、ミリアムは「自分でやらないと嫌だ」って昔は言ってましたね。でも結局、忙しくなってYUIちゃんに入ってもらったら、わーわー言ったのはどちらかというと僕でした(笑)。 ――:逆だったんですね(笑)。 健一郎:「ミリアムの魅力的な筆使いが、まだYUIちゃんには表現できてない!」って厳しく指摘してしまいました。僕はミリアムの絵付を客観的にいちばん近くで見てきたから、細かい違いが気になっちゃって。でも今はYUIちゃんに任せていいと思ってます。すごく上達して、ミリアムとYUIちゃんどっちが絵付してるのかわからないくらい。 ミリアム:窯元として人を雇うってことは、人を育てることでもあるんだなと、だんだんわかってきました。YUIちゃんは、見て理解する人。どういうふうに線を変えてほしいのか、わたしが描いて見せたら、すぐ通じる。いまは恐竜シリーズを一部担当してもらってるけど、全然違和感がない。すごく上手になってて、デザインも一部任せてます。今度YUIちゃんのデザインしたそば猪口(ちょこ)も商品にする予定です。 ――:大事な戦力に育っているんですね。 ミリアム:とってもありがたいです! 子どもが風邪をひいてわたしが1週間仕事ができなくても、窯焚きができる。「studio wani」のうつわが生まれていく。YUIちゃんも楽しんでくれてる。だから、すごくいい体制になってきていますね。入社してもらってよかった。 健一郎:YUIちゃんは、絵付以外は不器用なんですけど(笑)。でも超がつくほど真面目なので、お願いしたことに100% 全力で取り組んでくれるだろうと信頼できる人です。 ミリアム:もうひとり、最近入ったMisakiちゃんも真面目で、すでにいい感じに仕事をしてくれています。わたしたちはラッキーだなと思ってます。 ――:おふたりのルールとして「お互いフェアであること」が大切と前回おっしゃっていましたが、スタッフとの関係もかなりフラットですね。スタッフのふたりは、「studio wani」さんのSNSにも積極的に登場していますし、名前も出されています。 ミリアム:わたしたち夫婦が経営者だから責任は持っていますが、スタッフも含めみんなで満足して、ものづくりをしたいですね。何をつくるかも一緒に決めてます。Misakiちゃんもまだ入社したばかりだけど、商品のデザインを考えてみてってお願いしました。彼女たちもそうやって関わることで、「自分がつくってる」気持ちになれると思う。それは職人にとっては大事なこと。わたしは自分自身が職人だからそう思います。 健一郎:「自分がつくった」って自信を持って言えるものを世に出して、それを使って喜んでくれる人がいる。それってすごくモチベーションが上がります。今後、彼女たちがいつか独立を目指すにしても、 「studio wani」で名前が売れるようになってたら動きやすいですよね。だから「どんどん個人の作品つくって!」って僕たちも応援してます。これまで自分たちがたくさん応援してきてもらったので。 YUIさんがこれまでつくった作品を見るミリアムさん。 社員第一号、YUIさんにもお話を伺いました。 ――:YUIさんは社会人経験を経て、焼きものを習って「studio wani」に入社したそうですね。働いてみてどうですか? YUI:健一郎さんとミリアムさんは、きちんと評価してくれるし、問題があれば理由をつけて納得する形で落とし込んでくれるので、 とても働きやすいです。 ――:ご自身のスキルアップにもなっていると感じていますか? YUI:なってます、なってます! わたしの絵付が上達するように、毎日練習の時間もつくっていいと言ってくださるし、練習中にうまく描けたものは窯で焼いてギャラリーに置いてくれます。そうすると、人気の恐竜の絵柄なので、すぐに売れるんです。うれしいですし、モチベーションも上がります。 YUIさんが線描きの練習をしている素焼きのうつわたち。 ――:職人としてのおふたりはYUIさんからどのように見えますか? YUI:ものづくりに対しては正直で、「こう表現したい」という美意識がとても強い方たちです。ブレない芯がありますね、見習いたいです。 ――:YUIさん個人の作家活動も、おふたりから応援されてますよね? YUI:そうです、本当にありがたいです。幼いころから絵を描くことが大好きだったので、こうして絵付の仕事ができて、作家としての活動まで応援してもらえてうれしいです。わたしは社会人経験をしてから絵付を習いに波佐見に来て、卒業後どうしようと悩んでたんです。そんなときに「studio wani」さんの募集を見かけて即応募したんですが、こうして働けて、なんて運がいいんだろうって心から思っています。 YUIさんの作品のひとつ。鳥が好きで、作品の絵柄にもよく用いているそう。 気持ちよく、ものづくりを営むために。 ――:最後に、健一郎さんとミリアムさんに、今後の目標をお伺いしたいです。 ミリアム:新しく工房を建てたいんですよね。もうちょっと快適な環境で作業したくて。自分たちの労働環境も、スタッフさんの労働環境もよくしたいです。みんなで快適に働けるように。家も波佐見に建てたし、70代までは頑張らなくちゃ(笑)。だから体も大事にしないといけないし、スタッフのふたりにも長く一緒に働いてもらいたい。 健一郎:工房を建てる計画を進めていて、スタッフも雇うようになったので、僕としては今後は経営側に専念して、子育てにもっと注力していく選択肢も考えています。 ミリアム:これからもできるだけ手仕事でものづくりをしたい。それから、廃棄物をどれだけ出しているのかも意識しながら、再生サイクルをできるだけはみ出ないようにしたいですね。小さい窯元だからインパクトはないかもしれないけど、エコなものづくりができたら。 健一郎:今は再生可能エネルギー100% のプランがある電力会社と契約しています。計画中の新しい工房では、ソーラーパネルも設置予定です。それに合わせて、今使っているガス窯を電気窯に買い替えることで、再生可能エネルギー100% でものづくりがしたいと思っています。 ――:環境問題について、しっかり考えてらっしゃるんですね。 ミリアム:ドイツの両親の影響が大きいですね。何をするにも「環境にいいかどうか」気になります。だからできる限りのことはしています。普段使う自動車も、電気自動車を選んで買いました。 健一郎:web shop の商品を梱包する際も、素材には気を使っています。 梱包する際も、ミラーマットなどのプラスチック製緩衝材は使用せず、再生紙などを使用している。 ミリアム:このまま地球温暖化が進むと、子どもたちが生きづらい世界になってしまいます。それを防ぐためには、今すぐにアクションが必要です。でも世の中の多くの人はあまり生活や仕事を買えずに過ごしているんじゃないでしょうか。数十年後、もしも地球での暮らしが今より困難になったとしても、少なくとも自分の子どもたちに「わたしはできることをやった」と言えるように行動したいです。それから自分たちも、気持ちよくものづくりをしたいですね。 ――:気持ちよくものづくりをする、というのは? ミリアム:たとえばスーパーでピーナッツ買うとしますよね。そうすると大きいプラスチックの袋に入っていて、さらに小分けのまた小さい袋が入ってて、5粒くらい食べるためにゴミがたくさん出る。私はおいしいもの食べたいだけなのに、ゴミが多いと罪悪感があります。つくっているメーカーに対してもモヤモヤしちゃう。今はわたしがメーカー側になっているから、できるだけエコにしたい。うつわをつくることも買うことも、どっちも悪いことじゃないから、 環境に配慮して気持ちよくものづくりをして、お客さんに届けたいですね。 ****** 【studio wani】 Instagramhttps://www.instagram.com/studiowani/ webshophttps://studiowani.theshop.jp/ ※「studio wani」の器はHasami Lifeで取り扱っておりません。 studio waniさん、ありがとうございました! 次回は、陶房 青さんを訪ねます。 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.09.29 窯元探訪【丹心窯】vol.28 長﨑忠義『水晶彫の秘密。』 波佐見には、町の至るところに波佐見焼と真摯に向き合う「人」が存在します。今回、おじゃましたのは、佐賀県武雄市との県境にある波佐見町小樽郷に窯を構える『丹心窯(たんしんがま)』さん。まるでジュエリーのような輝きを放つ、唯一無二の美しい波佐見焼、その手仕事の秘密に迫ります。 2023.09.22 窯元の火を止めるな! 技術と雇用をつなぐ、波佐見焼企業のM&Aに迫ります。 後継者不在を理由に事業をたたむケースも増えているなかで、窯元の高山陶器(現・株式会社高山)と、商社である西海陶器株式会社はどうやって事業承継に結びついたのか。その先にどんな未来を見据えているのか。 新旧の社長に話を聞きました。 2023.08.25 【編集スタッフ募集中】波佐見焼の魅力を伝える Hasami Life 編集部に密着! 「波佐見焼や波佐見町、職人の手仕事のことを知ってもらいながら、ご自宅に波佐見焼を迎え入れてほしい!」これがHasami Life編集部の願い。週1回のよみもの配信を中心にさまざまな活動をしています。実際、どんな仕事をしているのでしょうか? 今回は、編集部員のたぞえさんに密着します。
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