HOME よみもの 波佐見を歩く “よかお茶”をつくる。原田製茶のお茶づくり vol.1 2020.09.24 “よかお茶”をつくる。原田製茶のお茶づくり vol.1 by Hasami Life 編集部 お茶は、1191年に長崎県平戸島から、日本へ伝来したと言われています。つまり、長崎県は日本一古いお茶の産地! 古くから茶樹が自生していたとされる波佐見町、その鬼木郷にある原田製茶さん。日本の棚田百選に選ばれる鬼木の棚田の山の上に茶畑を広げ、気候や風土にあったお茶をつくっています。 「うわあ、このお茶おいしい!」その味わいに驚いたHasami Life編集部は、日本茶アワードで受賞したほどのお茶と聞いて大納得。おいしさの秘密を訊くため茶畑へ行ってきました。 今回 vol.1 では鬼木郷だからこそのお茶づくりについてうかがいました。 原田賢一波佐見町鬼木郷のお茶農家で生まれ育ち、農協で働いたのち34歳で原田製茶を継ぐことを決意。52歳の現在もお茶づくりに打ち込み、製茶の技術についても研究を重ねている。原田製茶は2016年から日本茶アワードに出品し、そのおいしさが毎年高く評価されている。 鬼木郷だからできる、“よかお茶”。 ――:原田製茶さんのお茶を飲ませていただいたら本当においしくて。今日はその秘密を賢一さんにお聞きできたらと思います。 賢一:私の話で大丈夫かな(笑)。よろしくお願いします。――:はじめてお邪魔したとき、鬼木の棚田を登ってきたら頂上に茶畑が広がっていて、整った美しい茶畑にびっくりしました。棚田は江戸時代にはすでに現在に近い形だったそうですが、茶畑もずっと昔からここにあったのでしょうか。 山の上に広がる原田製茶さんの茶畑。8月の様子。 賢一:この山の上で、自家用のお茶づくりはしてたんじゃないかなと思います。鬼木郷は、山の湧き水が上から下に流れてるでしょう。水のあるところは田んぼを作って、山頂の水のないところは畑にして、お茶とかいろんな作物をつくってたはずです。今のようにお茶を販売するためにつくりはじめたのは私の3代前からだと聞いてます。 ――:この鬼木郷はお茶づくりに適した土地なのですか? 賢一:とても適してます。鬼木郷は寒暖の差があるので、お茶に甘みが出ますね。傾斜だから気流の流れがあって霜も降りにくい。収穫前にお茶農家が一番気を使うのが、霜なんです。 ――:茶畑に霜が降りると、どうなってしまうんですか?賢一:茶葉が枯れてしまいますねえ。――:ああ、味が落ちるのではなくて枯れてしまうんですね。 賢一:霜で凍った新芽が一気に溶けてしまうんですよ。商品にならないので、その年はもう終わりです。なので新芽が出はじめたら防霜ファンをつけて、霜がつかないように対策しています。 左上に見える、背の高い扇風機のようなものが防霜ファン。風を送って霜を防ぐ。 ――:収穫前は茶畑に黒い覆いをかけている写真を見かけました。あれはなんのためなんでしょう? 賢一:あの作業によって茶葉がより濃く緑色になるんですよ。茶摘みの一週間ぐらい前に黒い覆いをかけて。こうしてつくられたお茶を「かぶせ茶」と呼んでいます。 ――:今、8月の茶畑を見ても十分緑色に見えるんですけど、 これよりも!?賢一:ええ、色がより色が濃くなりますよ。また収穫前には外さないといけないので手間はかかりますけど、うちは畑の全部に覆いをかけてます。 ある年の、収穫前の原田製茶さんの茶畑。すべてのお茶の木に黒い覆いがかけられている。 ――:覆いをかけないお茶農家さんもあるんですか?賢一:わざと覆いをかけないで摘むところもあります。そうすると、香りが強くなって、味にも力強さが出ます。どういうお茶がつくりたいかで、やり方が違ってきます。――:原田製茶さんでは、どういうお茶をつくろうと思って、かぶせ茶にしてるのですか?賢一:ひとつは先ほどお話した、お茶の色のあざやかさ。それだけでなく、覆いをかけると味もコクがあって、渋みが少なくまろやかになります。だからかぶせ茶のほうがお客さまに好まれやすいんですよ。私としては今後、味に力強さのある無被覆のお茶もつくってみたいですね。 スピード勝負。 一番“よかとき”に、摘む。 ――:原田製茶さんでは、お茶の品種をいくつも育てていらっしゃいますが、どのように選んでいるのですか?賢一:そうですね、土地に合わせて選ぶほか、お客さまの好みも大切にしています。昔は「やぶきた」っていうお茶が主流だったんですけど、今の流行りに合わせて「さえみどり」も栽培しています。――:今の流行りのお茶って、どんな味なんですか?賢一:やっぱりお茶を淹れたときに美しい濃い緑色をしていて、渋みが少なくて、さらに香り高いお茶でしょうね。――:ちなみに原田製茶さんで販売しているお茶で、オススメはどれですか?賢一:2018年の日本茶アワードで準大賞を受賞した「心茶(こころちゃ)」でしょうか。このお茶に使っている“さえみどり”という品種は味も香りも素晴らしくて、市場でも高値で取引されています。そのほかのお茶は主に“やぶきた”という品種ですね。“さえみどり”は“やぶきた”より摘み取り時期が一週間ぐらい早いので、異なる品種を育てることで収穫時期をずらして、作業効率を上げています。 品種や品質によって、幅広い価格帯のお茶を販売。最上級の「心茶」が1500円、二番茶を使用したリーズナブルな「笑茶」が500円。 ――:確かに、全部の摘み取りを一気にするのは大変ですね。賢一:摘むのが遅くなっちゃったら、商品にならないですしね。摘むベストタイミングは3日間ぐらいしかありません。新芽の先端の芯が開いてくると味が落ちちゃうから、時間との勝負です。――:3日間。お茶の収穫はもっと時期が長いと思ってました。たとえば苺だと実が赤くなって、収穫時期が素人から見てもわかりやすいですよね。今日明日取らないと果実が落ちちゃうだろうなって。でもお茶は葉っぱだから……。賢一:いつ摘んでもいいと思ってたでしょ(笑)。――:はい、びっくりしました。賢一:どんどん成長してくるからね、新芽は。一番先端の若い芽から4枚ぐらいのときが摘みどきです。だいたい4日で1枚の葉が出てくるので、いつごろ摘めるかっていうのは逆算してます。――:今2枚だからあと8日後ぐらいだなっていう感じで計算してるんですね! 年間通して一番忙しいのは、茶摘みの時期ですか?賢一:はい、寝る時間がないほどですね。朝からお昼くらいまでお茶摘んで、それから工場持って行って、お茶を煎って。作業を終えると、日付を超えることもあります。 “よかお茶”をつくるために。 ――:先ほど見学させていただいて、収穫を終えた8月の今も茶畑の管理に手がかかると知りました。賢一:春先から霜に気をつけながらお世話をして、GWの時期にお茶を摘んだあとも、秋ごろまでは日々管理を続けます。お茶の木を刈りそろえて、肥料をまいて、雑草を抜いて。茶畑の中に生えた雑草は夏のうちに抜かないと種が落ちてしまうから、今はこまめにやってます。――:これだけ広大な畑だと、雑草を抜くだけでも大変そうですね。賢一:お茶を管理するより、雑草を抜くほうが長かったりするからね。でもうちは山の上で土地も限られるので、そんなに大きな茶畑じゃないんですよ。近所に田んぼを辞める人もいるから、畑を増やしてもいいんだけど……これ以上は手が回らないですね。量よりも質で勝負しようと思ってやってます。――:見学中、背の低いお茶の木の中の雑草まで、手を突っ込んで抜いていくのは大変だなあと思いました。 夏にはお茶の木の茂みの中に生えている雑草を手で抜いていく賢一さん。 賢一:茶畑の中はもちろん、傾斜があるぶん土手があるでしょう。土手の雑草も刈らないといけないんです。これは機械でできるんですが、それでも端から端まで雑草を刈り終わったと思ったら、最初に刈ったところはまた生えてきてますからね(笑)。――:なるほど。大変な作業ですね。賢一:大変だけど、おもしろいです。“よかお茶”ができればね。 原田製茶さんのHPオンラインショップでお茶をご購入いただけます。 https://www.harada-tea.com最新情報は、インスタグラムに掲載しています。 https://www.instagram.com/haradaseicha/ 【よみもの】製茶の奥深さ、玉緑茶の魅力について訊いた vol.2 https://hasamilife.com/blogs/walking/haradaocha-2 agasuke 茶器セット(急須) ¥8,800 es cup〈S〉 ¥1,100〜 Tweet 前の記事へ 一覧へ戻る 次の記事へ Hasami Life 編集部 この記事を書いた人 Hasami Life 編集部 関連記事 2023.11.24 サステナブルイベント【HASAMI no WA】へ行ってきました。 11月3日(祝・金)~11月5日(日)に開催されたサステナブルイベント【HASAMI no WA】。Hasami Life 編集部は初日に参加してきました。 このイベントは、先日「波佐見焼に欠かせない石膏型の秘密。」でも取り上げた波佐見町の石膏型のリサイクルの取り組みを、実際に見たり食べたりしながら体験できるイベントです。 2023.11.10 使わなくなった器を、あたらしい器と交換。波佐見町皿山『器替まつり』に行ってみた! 長崎県波佐見町で、毎年12月に行われている『器替まつり』を全力レポート。欠けてしまった器や使わなくなった器を持参すると、あたらしい器を半額で購入できる太っ腹なイベントです。 2023.10.20 波佐見焼に欠かせない石膏型の秘密。 現在、波佐見焼の大半は石膏型で作られています。この石膏型は昭和初期頃に美濃地区から職人を呼び、「鋳込み講習会」などを行うことで生産が普及しました。使用済みの石膏「廃石膏」を活用した波佐見町の取組を取材しました。
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